窓に浮かぶ白い巨体
朝、ホテルの部屋のカーテンを開けると、目の前に圧倒的な存在感を放つ白い船体が目に飛び込んできた。
これから私たちが乗船する「ノルウェージャン・サン号」だ。
基隆港に停泊するその姿は、まるで海に浮かぶ白亜の宮殿のようで、窓越しに眺めているだけで旅への期待が高まってくる。
子どもたちもベッドから飛び起きて窓に駆け寄り、「あれに乗るの?すごい!」と興奮気味に声を上げていた。
朝食を済ませた後、部屋でテレビをつけると、懐かしい光景が画面に映し出された。
台湾の株式専門チャンネルだ。1日中、株の銘柄についてアナリストが解説している番組だ。
以前台湾を訪れた際にも偶然このチャンネルを見つけ、証券会社勤務時代の記憶が蘇える。
画面には次々と銘柄コードとチャートが表示され、アナリストが熱心に企業分析を行っている。
中国語の解説は理解できないものの、チャートの動きや数字の羅列を見ているだけで、かつての日々を思い出す。
台湾市場特有の値動きの激しさ、そして解説者の情熱的な語り口。
言語は違えど、市場に対する真摯な姿勢は万国共通だと感じる。
現地のテレビを見るのは何を言っているのかよくわからないが、その国のお国柄が出ていて、普段日本では見られないような変わった番組を放送していて、これも海外旅行の楽しみの一つなのだ。
出航前のひととき
正午にホテルをチェックアウトし、乗船予定時刻の14時30分までまだ時間があった。
今回はWorld schoolingの旅、基隆海洋科学博物館を訪れることにした。
港のすぐ近くにあり、海運と港湾の歴史が学べ、大型船のシミュレーション体験ができる施設だ。
博物館に入ると、想像以上に充実した展示内容に驚かされた。
基隆港の発展の歴史、様々な船舶の模型、そして海運業の仕組みなどが分かりやすく展示されている。
しかし、子どもたちが最も興奮したのは、大型貨物船の操船シミュレーターだった。
本格的なブリッジを模した設備で、実際に船を操縦している感覚を体験できる。
上の子が最初に挑戦し、岸壁から離岸し基降港からの出港を試みる。
画面に映し出される映像はかなりリアルで、警笛と共に岸壁を離岸しコンテナクレーンの立ち並ぶ基降港の中を進んでいき、突堤から上手に出港することができた。
下の子も順番を待ちきれない様子で、「代わって、代わって」と叫んでいる。
シミュレーター体験はあっという間に過ぎていった。
子どもたちは「船長になりたい!」と目を輝かせており、これから乗船するクルーズ船への興味もますます高まったようだった。
博物館のスタッフの方も親切で、英語で丁寧に説明してくださり、基隆港が台湾北部の重要な玄関口であることや、年間何百隻ものクルーズ船が寄港することなどを教えてくれた。
いよいよ乗船
博物館を後にし、クルーズターミナルへと向かった。時刻は14時15分。すでに多くの乗客が列を作っており、世界中から集まった人々の活気に満ちていた。英語、中国語、そして聞き覚えのないヨーロッパ系の言語が飛び交っている。
チェックインカウンターでパスポートと予約確認書を提示し、セキュリティチェックを受ける。
空港のような手続きだが、スタッフの皆さんの笑顔と「Welcome aboard!」という言葉に、これから始まる船旅への期待が一層膨らむ。
子どもたちにも専用のクルーズカードが渡され、それが船内での部屋の鍵であり、また船内での買い物などにも使えることを説明された。
長いボーディングブリッジを抜けると、ついに船内へ。
エントランスを入ると、前回乗船したロイヤルカリビアンの船とは異なり、豪華絢爛な雰囲気というよりは、むしろ落ち着いた印象を受けた。
ノルウェージャン・サン号は少し年季の入った船で、最新のクルーズ船のようにキラキラとした派手さはない。でも、それがかえって良い。木目を活かした内装や、程よく使い込まれた雰囲気が、「ああ、これぞ船だ」という実感を与えてくれる。
宮殿のような豪華さではなく、長年多くの乗客を運んできた歴史を感じさせる、温かみのある空間だ。
部屋へ向かう前に、まずは船尾の屋外レストラン”グレートアウトドア”へ足を運んだ。
船でのビュッフェを楽しみにしていたので、子どもたちもお腹を空かせている。
屋外で開放感のあるグレートアウトドアは、すでに多くの乗客で賑わっていた。
料理の種類の豊富さに目を奪われる。アジア料理、西洋料理、新鮮なシーフード、サラダバー、そして魅力的なデザートの数々。
景色の良いテーブル席を確保し、基隆港を眺めながら遅めのランチを楽しんだ。
港には様々な船が停泊し、コンテナクレーンが動き、港町特有の活気が感じられる。
潮風が心地よく、船旅の始まりを実感する瞬間だ。
子どもたちはピザやパスタを選び、私と妻はハンバーガーをいただいた。
食事をしながら、これから訪れる寄港地について話し合う。
どこで何をしようか、子どもたちも積極的にアイデアを出してくれる。
船室での寛ぎとキッズクラブ登録
食事を終え、ようやく自分たちの部屋へ向かった。
ドアを開けると、想像以上に広く快適な空間が広がっていた。キングベッドとソファベッド。
荷物はすでに部屋の前に届けられており、クローゼットも十分な広さがある。
バルコニーに出ると、港の風景が一望できる。先ほど訪れた海洋博物館も見える。子どもたちは早速ベッドに飛び込み、テレビのチャンネルを探している。船内案内チャンネルでは、様々な施設やアクティビティの情報が流れている。プール、ウォータースライダー、ミニゴルフ、そしてキッズクラブ。子どもたちの目がキラキラと輝いた。
少し休憩した後、16時頃にキッズクラブの登録へ向かった。デッキ7にあるキッズクラブは、カラフルで楽しい雰囲気の空間だった。
年齢別にグループ分けされており、様々なアクティビティが用意されている。クラフトアート、ゲーム、簡単な運動での遊びなど。
スタッフの方々は子どもの扱いに慣れており、登録手続きもスムーズだった。
緊急連絡先や子どもの好み、アレルギーの有無などを記入し、営業時間や利用ルールについて説明を受ける。
子どもたちは早く遊びたくてうずうずしている様子だったが、夕食の予定があるため、明日からの利用を約束して部屋に戻った。
メインダイニングでのフリースタイルディナー
夜7時過ぎ、私たちはメインダイニングルームへ向かった。
ノルウェージャンクルーズラインの大きな特徴が、この「フリースタイルダイニング」だ。
従来のクルーズのように決められた時間に決められた席で食事をする必要はなく、好きな時に好きなレストランへ行けばいい。
しかも、ドレスコードもないため、昼間のカジュアルな服装のままでも気兼ねなく食事を楽しめる。
この自由さが、小さな子どもを連れた家族には本当にありがたい。
「今晩はどこで食べようか?」と家族で相談しながらレストランを選べる楽しさ。
今夜は本格的なコース料理が楽しめるメインダイニングを選んだ。
入口で人数を伝えると、スタッフがテーブルへ案内してくれる。
メニューは前菜、スープ、サラダ、メインディッシュ、デザートと本格的なコース料理。
子ども向けのメニューも用意されており、配慮が行き届いている。
私は前菜にラビオリ、スープはオニオンスープ、メインにはステーキを選んだ。妻はシーフードのグリル、子どもたちはチキンとピザをオーダー。
料理が運ばれてくるたびに、その美しい盛り付けと味わいに感動する。
特にステーキは絶妙な焼き加減で、肉の旨みが口の中に広がる。
子どもたちも普段は食べない量を完食し、満足そうな表情だ。
デザートのチョコレートケーキとアイスクリームで食事を締めくくり、お腹も心も満たされた。
フリースタイルダイニングのおかげで、子どもたちの機嫌やその日の予定に合わせて柔軟に食事時間を決められるのは、家族旅行において大きなメリットだ。
ウェイターのサービスも洗練されており、タイミング良く料理が運ばれてくる。
夜のデッキ散歩と明日への期待
夕食後、船はすでに出航していた。デッキに出ると、基隆の夜景が徐々に遠ざかっていく。
海風が頬を撫で、波の音が心地よい。
子どもたちは手すりに掴まりながら、暗い海を眺めている。
都会の喧騒から離れ、ただ静かに海と向き合う時間。日常では味わえない贅沢だ。
船内を探索しながら部屋へ戻る道すがら、カジノやシアター、バーなど様々な施設を目にした。
最新のクルーズ船のような派手さはないけれど、かえってそれが落ち着ける。
廊下を歩いていても、「あ、これは船なんだ」という実感が湧いてくる。
明日からはこれらの施設も利用してみたい。
部屋に戻ると、シャワーを浴びて、ベッドに横になる。
船の揺れは思ったよりも穏やかで、心地よい。
明日はどんな一日になるだろうか。
寄港地での観光、船内のアクティビティ、そして新しい出会い。期待に胸を膨らませながら、眠りについた。
長い一日だったが、充実した乗船初日。これから始まる船旅が、きっと家族にとって忘れられない思い出になるだろう。
窓の外には満天の星空が広がり、波の音が子守唄のように響いている。


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